税務に関する情報
知っておきたい最新の税務情報 第66弾 [2016.06.03]
日本企業の税負担は諸外国に比べ過重であり、企業の海外移転の増加や、海外からの投資を妨げる要因になっているといわれてきました。安倍首相は平成26年1月に世界経済フォーラム(ダボス会議)において「法人にかかる税金の体系も、国際相場に照らして競争的なものにしなければなりません」と語り、日本の法人税改革を行い法定実効税率の引下げを表明しました。また、平成26年6月に閣議決定された「経済運営と改革の基本方針2014」では「数年で法人実効税率を20%台まで引き下げることを目指す」とされました。
これに呼応し平成26年度税制改正では、復興特別法人税が当初予定より一年前倒しで廃止、その後も順次引き下げられ、平成28年度には20%台になりました。では、法定実効税率とは何を指すのでしょうか。
法定実効税率は、企業が負担している国税と地方税の税率から成り立っています。中小企業で、事業税の外形標準課税対象外法人の場合を見てみましょう(平成29年3月決算法人の場合)。
・(国税)法人税 課税標準額×税率(23.4%) ※800万円以下は15%
・(国税)法人地方税 課税標準額(法人税額)×税率(4.4%)
・(地方税)住民税 課税標準額(法人税額)×税率(県5.8%、市町村9.7%)
・(地方税)事業税 課税標準額×税率(所得に応じて段階的に3.4~6.7%)
+地方法人特別税 基準法人所得割×43.2%
これらの税率を合計したものが表面税率となります。
表面税率=法人税率+法人税率×住民税率+事業税率
ただし、事業税は法人の課税所得計算において損金(法人税法上の経費)に算入することができますので、実際の税負担は表面税率を掛けたものよりも低くなります。この事業税分を調整したものが法定実効税率となります。
法定実効税率=法人税率×(1+住民税率)+事業税率/(1+事業税率)
=33.80%(外形標準課税適用外)、29.97%(外形標準課税適用)
日本の法定実効税率は平成25年度(2013年)には37%でしたが、平成26年度(2014年)は34.62%、平成27年度(2015年)は32.11%、そして平成28年度(2016年)は29.97%と数年で7%以上引き下げられており、当初目標とされていた30%を下回る水準になっています。また、東京オリンピックの開催される平成32年度(2020年)には29.74%を予定しています。
では、諸外国の税率はどのような水準なのでしょうか?諸外国も2010年代に入り積極的な法人減税を行ってきており、平成26年度の資料によれば、ドイツ29.65%、イギリス20%、OECD加盟国平均24.98%、アジア平均22.17%となっています。
この数字を見ていただければわかるように、日本と同様に製造業に強いドイツは29.66%ですので、ほぼ同水準になってきているといえます。
法人の税負担の観点からすると、日本企業が諸外国に比べて圧倒的に不利であるという状況は脱しつつあるといえるのではないでしょうか。
※本節の諸外国の税率は経済産業省の資料に拠っています。
法定実効税率の引下げは企業にとってプラスの要因ばかりとはいえません。ここ数年歳入が多少増えたからといって、国の財政は依然として厳しい状況にあります。となると、法定実効税率を引き下げて減った分の財源はどこからか調達しないといけません。
このため、近年の税制改正では、これまで企業が受けることのできた税制上の優遇措置の見直し、廃止が順次行われています。設備投資などで、優遇税制の適用を検討している場合は、期間や要件の変更に注意が必要となっています。
・欠損金の繰越控除制度の見直し
・受取配当等の益金不算入制度の見直し
・租税特別措置法の見直し(期限のあるものは、期限到来とともに廃止、縮小)
・法人事業税の外形標準課税の拡大
・減価償却方法の変更 など
税理士 長尾幸展