税務に関する情報
知っておきたい最新の税務情報 第90弾 [2018.06.29]
後継者候補となる親族が、事業承継に伴い発生する相続税の負担が過大であり円滑な事業承継が阻害されているとして、平成20年に非上場株式等に係る相続税、贈与税の納税猶予制度(いわゆる事業承継税制)が創設されました。一定の条件の下、その会社の発行済議決権株式等の3分の2を上限として、株式等の課税価格の相続税・贈与税の納税猶予しようというものです。
しかし、事業承継税制の利用が進んでいるわけではありません。中小企業数は、380.9万社(中小企業庁、2014年7月)ですが、当初の制度利用は、年間で150件から200件程度でしかありませんでした。制度が非常に難解である点や、「従業員雇用の8割維持要件」「後継者の代表退任の制限」「後継者の株式譲渡の制限」など納税猶予の打ち切り条件が厳しく、打ち切り時には納税猶予された相続税・贈与税に加えて利子税を納付するなど、リスクの高い制度であると認識されたこと、適用対象となる経営者、後継者の定義が狭いことなどが大きな要因と考えられます。この厳しさは、中小企業経営者のみの相続税・贈与税を優遇することは課税の不公平につながる面があること、制度が想定しない租税回避行為に利用されることを避ける必要があることに配慮した結果です。平成25年度改正、平成29年度改正において、条件を緩和し利用件数は増加しつつありますが、円滑な事業承継が実現できているという現状ではありません。
平成30年度には、従来の事業承継税制の特例が創設されました。この特例は、これまでの事業承継税制の改正と比較して、より利用しやすい内容の特例となっています。特例のポイントは次のとおりです。
平成30年度に創設された事業承継税制の特例の適用を受けるには、平成30年4月1日から平成35年3月31日までの間に特例承継計画を都道府県に提出する必要があります。また、平成30年1月1日から平成39年12月31までの間に贈与等により取得する財産に係る贈与税または相続税に適用されます。
この特例で利用しやすく、有利になったことは間違いありませんが、安易に税負担を軽減できるわけではありません。興味がある方は税理士とよく相談の上、検討されるとよいでしょう。
税理士 三浦陽平