1 はじめに
税務調査の際に、税務署職員の指摘に応じて修正申告を行った経験がある方もいるかもしれません。
今回は、修正申告をせずに税務署長から納得できない処分を受けてしまった場合を念頭に、その処分を争う手続きについて説明します。
2 手続きの全体像 ※1
納税者は、処分の通知を受けた日の翌日から原則として3か月以内に、処分を行った税務署長に対する「再調査の請求」を行うか、国税不服審判所長に対する「審査請求」を行うかのどちらかを選択して、処分を争うことができます。
審査請求の結果にも納得できない場合には、裁判所に対し、「取消訴訟」を行うことができます。
3 再調査の請求
処分の通知を受けた日の翌日から3か月以内に、処分を行った税務署長に対して、再調査の請求を行うことができます。
処分を行った主体に対するものであることが、他の手続きと異なる特徴です。
税務署長は、審理の結果を納税者に通知します。
4 審査請求
- 処分の通知を受けた日の翌日から3か月以内に、国税不服審判所に対して審査請求を行うことができます。※2
また、上記3の再調査の請求の結果になお納得できないときは、再調査の請求の結果の通知を受けた日の翌日から1か月以内に、審査請求を行うことができます。 - 国税不服審判所は、国税庁の特別の機関として、執行機関である国税局や税務署から分離された別個の機関であること、弁護士や税理士、公認会計士などの民間の専門家が審理に参加すること、処分の根拠となった法令の解釈や通達と異なる判断をすることができること(国税通則法99条)などから、再調査の請求よりも中立公正な判断が期待できるとされています。
国税不服審判所は、「裁決」という形式で、審理の結果を納税者と税務署長に通知します。
5 取消訴訟
国税不服審判所の裁決にも納得できない場合(審査請求から3か月を経過しても裁決が出されない場合にも、取消訴訟を提起することができます。)、裁決があったことを知った日の翌日から6か月以内に、取消訴訟を起こしてさらに争うことができます。
6 最後に
税理士は、再調査の請求及び審査請求の段階では代理人として、取消訴訟の段階では補佐人という立場で手続きに関与することができます。
令和6年6月に国税庁が公表した令和5年度の統計では、再調査の請求が認められた割合は6.5パーセント、審査請求が認められた割合は9.7パーセント、取消訴訟が認められた割合は7.6パーセントと決して高くないことも踏まえて(それぞれ一部認められた場合を含みます)、今回紹介した手続きを行うべきかについては慎重に検討した方がよいでしょう。
- 租税に関する争訟が大量に発生していること、複雑かつ専門的であることなどから、裁判所による審理の前に、租税法の知識や実務経験を積んだ人材により再調査の請求や審査請求を行うことが要求されています。
なお、再調査の請求や審査請求の手続きが要求されない、無効確認訴訟という手続きもありますが、課税要件に重大な瑕疵が求められるなど認められるハードルが高いとされています。 - 国税不服審判所は、霞が関の本部のほかに、東京・大阪・名古屋・関東信越・札幌・仙台・金沢・高松・広島・福岡・熊本・沖縄の12の支部、横浜・新潟・長野・静岡・京都・神戸・岡山の7つの支所があります。
税理士 森田 清則