【税務】第173弾 海外勤務者の源泉所得税(帰国後の注意点)

はじめに

 令和6年2月掲載の【税務】第158弾で、海外勤務者の源泉所得税について、永年表彰、出国後賞与及び給与について説明させていただきましたが、今回は海外出向者が日本に帰国した場合の留意点を中心に説明します。

勤務地国での課税関係

 海外勤務者が1年以上の予定で海外子会社などに出向した場合、日本を出国した翌日から非居住となります。それと同時に勤務地国では居住者となり、勤務地国の個人所得税法などに基づき申告、納税を行います。
 勤務地国の個人所得税法などは国にもよりますが、日本と同じように、大半の国では居住者については全世界所得課税を採っています。
 つまり、勤務地国の海外子会社などから支払われる給与などに加えて、日本本社から支払われる留守宅手当などの給与を合算して現地税務当局に申告、納税します。国によっては日本と比べて高額な税額になることもあります。
 日本本社では、海外勤務者に不利益が生じないように、日本本社が現地会計事務所などを通して海外勤務者に係る現地所得税を、現地税務当局に支払っている場合があります。

帰国後現地所得税

 海外勤務者は海外勤務を終えて帰国した場合、入国の日の翌日から居住者となり全世界所得課税となります。
 海外勤務者の現地所得税は国によっては、帰国以降に申告、納税が発生するものもあります。現地所得税は当該海外勤務者自身の税金なので、日本本社が支払えば、当該海外勤務者に対する経済的利益に該当します。帰国した海外勤務者は入国の翌日から居住者であることから、国外勤務に基因する経済的利益であっても、給与所得として源泉徴収する必要があります。
 ここで注意していただきたいのは、海外駐在員事務所から現地所得税が支払われる場合です。当該現地駐在員事務所の運営資金が、日本本社の送金で賄われている場合は、支払者は、日本本社となり、日本で源泉所得税を納付する必要があります。
 この場合は、海外支払いの源泉徴収となりますので、法定納期限は支払月の翌月10日ではなく、翌月末となります。

帰国後に支払われる給与、賞与の源泉徴収について

 海外勤務者が海外勤務を終えて、日本に帰国した場合は入国日の翌日から居住者となります。居住者となれば、全世界所得課税ですので、給与の計算期間が全て海外勤務分であっても、日本で給与所得として源泉徴収します。
 例えば、給与の計算期間が前月21日から当月20日で支給日が当月25日の場合、海外勤務者が当月24日に帰国すると、25日に支給した給与は源泉徴収する必要があります。
 帰国直後の給与が源泉徴収漏れにならないように、給与計算システム上、帰国の翌日から必ず居住者として管理してください。賞与についても、給与と同様です。

海外勤務者の帰国後の年末調整時の留意点

 海外勤務者が海外勤務中でも、厚生年金、健康保険などの社会保険に加入しているケースがあります。それらの社会保険料は日本本社で支払われる留守宅手当などの給与から天引きされています。
 年の中途に帰国した海外勤務者の年末調整をする際に、社会保険料控除の対象になるのは、居住者となった以降、給与から天引きされた社会保険料ですので、海外勤務中に天引きされた社会保険料は含めないでください。
 海外勤務中に日本本社で天引きされた社会保険料は、当該海外勤務者の勤務地国の居住者となることから、勤務地国の個人所得税法などに基づき取り扱われます。

最後に

 海外勤務者が帰国した翌日から居住者となり、全世界所得課税となりますので、帰国後に支払われる給与、賞与、現地所得税などの経済的利益は国外勤務分であっても源泉徴収の対象になりますので、留意してください。

以上

税理士 川瀬 正勝

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