【税務】第176弾 中小企業の賃上げを後押し!

~「賃上げ促進税制」の活用で税負担を軽減~

 中小企業にとって、従業員の賃上げは人材の確保や定着に直結する重要な経営施策ですが、経営資源の制約から実行が難しいケースも少なくありません。こうした課題を受け、「賃上げ促進税制」が強化されました。令和6年4月1日以降に開始する各事業年度においては、要件を満たす中小企業に対して最大45%の税額控除を認める仕組みが整備されています。また今回、賃上げを実施した年度に控除しきれなかった金額の5年間の繰越が可能となりましたのでご紹介いたします。

制度の概要

 この制度は、中小企業者などまたは青色申告書を提出する常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主が、国内雇用者への給与などを前年度より増加させた場合に、その増加額の一部を法人税額(個人事業主は所得税額)から控除できるものです。

【控除率の構成】

要件控除率
給与等支給額が1.5%以上増加15%控除
給与等支給額が2.5%以上増加+15%加算
教育訓練費が5%以上増加(かつ給与総額の0.05%以上)+10%加算
くるみん/えるぼし等の認定取得+5%加算
最大合計45%控除(※税額の20%が上限)

給与などの増加判定に関する注意点

 本制度の対象となる給与などとは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びに、これらの性質を有する給与をいいます。退職金など給与所得とならないものについては、原則として対象外となります。一方で、賃金台帳に記載された支給額のみを計算するなど、合理的な方法により継続して給与などの支給額を計算する場合には、非課税通勤手当なども含めて計算することができます。
 また、対象となる雇用者については、国内に所在する事業所につき作成された賃金台帳に記載された者に限られます。役員や役員の特殊関係者(6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族)は対象となりませんのでご注意ください。
 なお、給与支給にあたり「トライアル雇用助成金」や「キャリアアップ助成金」などの補助金を受けている場合には、助成金などで補填された部分は控除して増加割合の判定を行う必要があります。

教育訓練費増加による加算

 教育訓練費とは、中小企業者がその国内雇用者の職務に必要な技術または知識を習得させ、または向上させるために支出する費用を指します。

【教育訓練費の具体例】

  • 外部講師への謝金や旅費
  • 外部研修の受講料、受験手数料
  • 研修会場の賃借料、コンテンツ使用料
  • 教育訓練の委託費や教材費 など

 教育訓練費増加の加算を受ける場合には、教育訓練などの実施時期、実施内容、受講者、費用の支払い証明が分かる明細書を作成の上、保存していただく必要があります(提出は不要です)。

控除しきれない金額の繰越控除

 本制度の控除額は、法人税額など(個人事業主の場合は所得税額)の20%とされています。控除可能な税額がなかった場合や赤字だった場合には、今制度から5年間繰り越すことが可能となりました。

 繰越控除を利用する場合は、

  1. 未控除額が発生した事業年度以後の各事業年度の確定申告書に繰越税額控除限度超過額の明細書を提出すること
  2. 繰越税額控除措置の適用を受けようとする事業年度の確定申告書などに繰越控除を受ける金額を記載するとともに、その金額の計算に関する明細書 を提出すること

が必要となります。①の明細書が提出されていない場合、未控除額は繰り越されず、繰越税額控除を適用できませんので、ご注意ください。

まとめ

 人材の定着と育成に取り組む中小企業にとって、賃上げ促進税制は非常に有効な支援制度です。制度の正しい理解と準備により、最大45%の控除という大きなメリットを活用することが可能です。
 また、5年間の繰り越しが新設されたことで、長期的な目線での人材確保や教育を計画することも可能になりました。
 賃上げをご検討される際には、ぜひ本税制の活用もあわせてご検討ください。

税理士 矢田宏昌

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