所得税や個人住民税の税額を計算する際、納税者の個人的事情などを考慮して所得から一定額を差し引くことのできる仕組みが設けられています。これを所得控除といいます。令和7年度税制改正では、物価上昇や就業調整への対応を目的として、所得控除の一部が見直されました。以下では「基礎控除」及び「給与所得控除」の改正、「特定親族特別控除」の創設について解説します。
1 基礎控除額の引き上げ
令和7年度税制改正では、所得控除の1つである基礎控除額が次表のとおり引き上げられました。この改正は、令和7年分以後の所得税に適用されます(なお、個人住民税については改正がありません)。
合計所得金額 | 基礎控除額 | |||
---|---|---|---|---|
改正後 | 改正前 | |||
令和7・8年分 | 令和9年分以後 | |||
132万円以下 | 95万円 | 48万円 | ||
132万円超 336万円以下 | 88万円 | 58万円 | ||
336万円超 489万円以下 | 68万円 | |||
489万円超 655万円以下 | 63万円 | |||
655万円超 2350万円以下 | 58万円 |
※合計所得金額2350万円超の場合の基礎控除額については改正がありません。
2 給与所得控除の最低保障額の引き上げ
給与収入から差し引くことのできる給与所得控除の最低保障額が、現行の55万円から65万円に引き上げられました。この改正は、令和7年分以後の所得税及び令和8年度分以後の個人住民税に適用されます。
3 特定親族特別控除の創設
居住者が特定親族(※)を有する場合、その居住者の総所得金額などから次表の金額を控除する特定親族特別控除が創設されました。この改正は、令和7年分以後の所得税及び令和8年度分以後の個人住民税に適用されます。
※特定親族:居住者と生計を一にする19歳以上23歳未満の親族(配偶者、青色事業専従者及び白色事業専従者を除く。)で、合計所得金額が58万円超123万円以下の者をいいます。
特定親族の合計所得金額 | 特定親族特別控除額 | ||
---|---|---|---|
所得税 | 個人住民税 | ||
58万円超 85万円以下 | 63万円 | 45万円 | |
85万円超 90万円以下 | 61万円 | ||
90万円超 95万円以下 | 51万円 | ||
95万円超 100万円以下 | 41万円 | 41万円 | |
100万円超 105万円以下 | 31万円 | 31万円 | |
105万円超 110万円以下 | 21万円 | 21万円 | |
110万円超 115万円以下 | 11万円 | 11万円 | |
115万円超 120万円以下 | 6万円 | 6万円 | |
120万円超 123万円以下 | 3万円 | 3万円 |
4 関連する改正
基礎控除の改正に伴い、扶養控除、配偶者控除、ひとり親控除及び勤労学生控除の所得要件が見直されました。
また給与所得控除の改正に伴い、家内労働者などの事業所得などの所得計算の特例について、必要経費に算入する金額の最低保障額が65万円に引き上げられました。これらの改正は、令和7年分以後の所得税及び令和8年度分以後の個人住民税に適用されます。
5 改正の施行時期と源泉徴収事務
以上の改正は、原則として令和7年12月1日に施行され、令和7年分以後の所得税について適用されます。このため令和7年11月までの源泉徴収事務に変更はなく、令和7年分年末調整を含む令和7年12月以後の源泉徴収事務から変更することとなります。
令和7年度税制改正により、物価上昇局面における低〜中所得者層の税負担の軽減、いわゆる「年収の壁」による就業調整への対応が一定程度図られることとなります。もっとも地方自治体の財源不足の問題から、個人住民税については基礎控除額が引き上げられませんでした。したがって収入金額によっては、所得税はかからないものの、個人住民税の負担は生じる場合がある点には注意が必要です。税制改正についてご不明な点は、税理士にお尋ねください。
【出典】国税庁ホームページ「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」https://www.nta.go.jp/users/gensen/2025kiso/index.htm
以上
税理士 北村徳志