【税務】第177弾 所得税の年収の壁の見直しの影響について

 令和7年度の税制改正では、いわゆる「103万円の壁」が「160万円の壁」に引き上げられました。今回はこの年収の壁の見直しの内容と影響について確認してみましょう。

1.年収と所得

 まずは社員に改正の内容や年末調整の注意点を説明する際に正しく伝えられるように、混同しやすい用語である「年収」と「所得」の違いを確認してみましょう。

①「年収」

 社会保険料や税金を引かれる前の、会社から支払われる総支給額を年収といいます。源泉徴収票の「支払金額」欄の金額がこれに当たります。

②「給与所得」

 年収から「給与所得控除」を差し引いたものが給与所得です。給与以外の所得がなければ、給与所得=合計所得金額となります。

③「課税所得」

 合計所得金額から、基礎控除や生命保険料控除等の所得控除額を差し引いたものが課税所得です。この課税所得に税率を掛けて所得税を算出します。

2.主な改正内容

 主な改正内容は次のとおりです。法令改正の施行日は令和7年12月1日となっています。詳細は国税庁ホームページ「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について(源泉所得税関係)」をご参照ください。

①給与所得控除の引き上げ(所得税・住民税共通)

 令和6年までの最低保障額55万円に+10万円され令和7年からの給与所得控除の最低保障額は65万円となります。

②基礎控除の引き上げ(所得税)

 合計所得⾦額が2,350万円以下の場合、令和6年までの基礎控除額48万円に+10万円され、令和7年からの基礎控除額は58万円となります。
 なお、恒久的措置として合計所得⾦額が132万円以下の場合には、上記の引き上げ額に37万円が上乗せされ、基礎控除が58万円+37万円の95万円になります。

 また、令和7、8年限定の時限措置として合計所得⾦額が132万円超655万円以下の場合には、上記の引き上げ後の基礎控除額58万円に更に上乗せ額5万円から30万円が加算され63万円から88万円(改正前から+15万円から+40万円)になります。

 この①給与所得控除の引き上げ額と、②基礎控除の引き上げ額を合わせて、所得税が課税されない年収が上がり、「160万円の壁」になりました。
 この改正は社員本人だけではなく、社員が扶養する配偶者や親族の控除にも及んでおり、配偶者控除や扶養控除を受けるための年収の壁が103万円から123万円になりました。

3.事業者への影響

①その他の年収の壁

 今回の改正で所得税の年収の壁が103万円から160万円になり、扶養親族の年収の壁も103万円から123万円になりました。
 一方で社会保険の加入要件は変更がありませんので、105万の壁(社員51名以上の会社)、130万の壁(社員50名以下の会社)はそのまま残っていますので、注意が必要です。
 また、個人住民税については、給与所得控除は改正されましたが、基礎控除は改正されていませんので、110万円の壁として存在します。

②自社の手当等の見直しの検討

 社員に家族手当などを支給している場合には、自社の手当などについて確認し、支給条件を見直す必要があるかを検討しましょう。この際、給与規定などについても見直しが必要となる場合もあるため、早めに対応して、社員に周知しましょう。

③令和7年分の年末調整への影響

 年末調整関連の申告書に記載する所得の計算方法や、控除を受けられる所得要件などが変わりました。また新設された特定親族特別控除を受けるために記入する欄が追加されているため、これらを社員に周知して、正しく記載してもらうようにしましょう。
 なお、この所得税の改正は施行日は令和7年12月1日ですので、11月までの源泉所得税の計算や、退職者への源泉徴収票の発行は、従前の規定にのっとって処理することとなるので、ご注意ください。

税理士 山村祥弘

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