電子契約とは、紙の契約書を作成せずにパソコンやスマートフォン上の電子データで契約を締結する方法です。電子契約書は、契約内容を電子データとして作成し、電子署名やタイムスタンプで当事者の合意や成立時刻を証明します。従来の紙の契約に比べ、場所や時間に縛られずに契約を行える点が大きな利点であり、契約管理の効率化やセキュリティの向上にもつながります。
電子契約が普及し始めたのは2015年頃です。クラウド型の電子契約サービスが登場したことが大きな転機となりました。さらに2020年の新型コロナウイルス感染症の流行により、リモートワークが急速に拡大したことを受け、非対面でも契約を安全に結べる手段として利用が加速しました。現在では大企業にとどまらず、中小企業や個人事業主へもその利用が広がっています。
一方で、電子契約の普及とともに浮かび上がったのが「印紙税」との関係です。印紙税は、契約書や領収書など、経済取引に伴い作成される広範な文書に対して軽度の負担を求める税であり、契約書や領収証などの文書を作成した場合には、これに収入印紙を貼付することによって納税が行われます。
契約書や領収書などの文書が作成される場合、その背後には、取引に伴って生じる何らかの経済的利益があるものと考えられています。印紙税は、このような点に着目し、文書の作成行為の背後に担税力を見出して課税を行っています。
印紙税は、経済取引に伴い作成される文書のうち、不動産の譲渡契約書、請負契約書、手形や株券などの有価証券、保険証券、領収書、預貯金通帳など、軽度の補完的課税を行うに足る担税力があると認められる特定の文書を20に分類し、課税対象としています。
印紙税の納税義務は、課税文書を作成した時に成立し、その作成者が納税義務者となります。また、原則として納税義務者が作成した課税文書に印紙税に相当する金額の収入印紙を貼付することにより納税が完結し、特定の文書には非課税措置が講じられ、一定の記載金額以下の文書には印紙税を課税しない仕組みとなっています。
課税文書とは、印紙税法別表第一課税物件表の課税物件名欄に掲げられている文書になります。別表第一課税物件表に規定されている課税物件表の適用に関する通則5項において契約書とは、「契約証書、協定書、約定書その他名称のいかんを問わず、契約の成立若しくは更改又は契約の内容の変更若しくは補充の事実を証すべき文書をいい、念書、請書その他契約の当事者の一方のみが作成する文書又は契約の当事者の全部若しくは一部の署名を欠く文書で、当事者間の了解又は商慣習に基づき契約の成立等を証することとされているものを含むものとする」とされています。また、印紙税法基本通達44条において、課税文書の作成とは、「単なる課税文書の調製行為をいうのでなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使することをいう」とされ、相手方に交付する目的で作成される課税文書の作成時とは、交付の時とされています。
したがって、電子契約書は、課税事項を用紙等に記載をして相手方に交付しないので、課税文書の作成とはならず、印紙税の課税対象になりません。
印紙税法は、電子契約などが普及している中で、同じ取引でも電子によるものと紙面によるものとで課税の有無がわかれるという不公平感があり、問題があるという意見もあります。
税理士 小菅 祐介
