人材確保等促進税制は、令和3年度の税制改正により、大企業向けの賃上げ及び投資の促進に係る税制の要件を見直し、青色申告書を提出する全ての法人及び個人事業主を対象とした税制となりました。
改正前の制度が、国内雇用者の給与等支給額の増加分と積極的な設備投資に対して税額控除のインセンティブを与えていたのに対し、改正後の制度は、新規雇用者の給与等支給額の増加分を対象とする制度です。
また、この制度は、中小企業向けの所得拡大促進税制と適用要件が異なるため、所得拡大促進税制が適用できない場合でも、人材確保等促進税制が適用できる可能性があります。
今回は、その適用要件を中心に税制の内容を説明していきます。
1.税制の内容
青色申告書を提出する法人が、令和3年4月1日から令和5年3月31日までの間に開始する各事業年度において国内新規雇用者に対して給与等(給与所得となるもの)を支給する場合において、「2.通常要件」を満たすときは、控除対象新規雇用者給与等支給額の15%を法人税額から控除します。さらに、「3.上乗せ要件」を満たすときは、控除対象新規雇用者給与等支給額の20%を法人税額から控除します。ただし、15%又は20%を乗じて算定する税額控除額は、法人税額の20%を上限とします。
(所得税(個人事業主)についても同様の規定があります。)
2.通常要件(新規雇用者給与等支給額が前年度より2%以上増加)
新規雇用者給与等支給額 (適用年度) | − | 新規雇用者比較給与等支給額 (前年度) | ≧ 2% |
新規雇用者比較給与等支給額 (前年度) |
3.上乗せ要件(教育訓練費の額が前年度より20%以上増加)
教育訓練費の額 (適用年度) | − | 比較教育訓練費の額 (前年度) | ≧ 20% |
比較教育訓練費の額 (前年度) |
4.用語の説明
- 新規雇用者給与等支給額とは、国内の事業所において新たに雇用した雇用保険法の一般被保険者に対してその雇用した日から1年内に支給する給与等の支給額をいいます。
- 新規雇用者比較給与等支給額とは、前年度の新規雇用者給与等支給額をいいます。
- 控除対象新規雇用者給与等支給額とは、国内の事業所において新たに雇用した者に対してその雇用した日から1年内に支給する給与等の支給額をいいます(給与等の支給対象者は雇用保険法の一般被保険者に限定されません。)。
ただし、雇用者給与等支給額から比較雇用者給与等支給額を控除した金額を上限とします。 - 雇用者給与等支給額とは、適用年度における全ての国内雇用者に対する給与等の支給額をいいます。
- 比較雇用者給与等支給額とは、前年度の雇用者給与等支給額をいいます。
- 教育訓練費の額とは、国内雇用者の職務に必要な技術又は知識を習得させ、又は向上させるために支出する費用で、次のものをいいます。
- 企業が教育、訓練、研修、講習その他これらに類するもの(以下「教育訓練等」といいます。)を自ら行う場合の費用
- 他の者に委託して教育訓練等を行わせる場合の費用
- 他の者が行う教育訓練等に参加させる場合の費用
- 比較教育訓練費の額とは、前年度の教育訓練費の額をいいます。
(新規雇用者(比較)給与等支給額、控除対象新規雇用者給与等支給額及び(比較)雇用者給与等支給額については、給与等に充てるため他の者から支払いを受ける金額がある場合には、当該金額を控除します。ただし、新規雇用者(比較)給与等支給額からは、雇用調整助成金及びこれらに類するものの額を控除しません。)
5.まとめ
人材確保等促進税制の適用にあたっては、確定申告書に一定の事項を記載した明細書の添付が必要となります。また、設立事業年度は適用対象外になるなど上記以外にもいくつかの注意点があります。検討の際には、税理士にお尋ね下さい。
なお、今後の税制改正によっては、内容が変更となる可能性があります。
税理士 渡邊和幸